2008年度 活動履歴 - 小学校へのアウトリーチ活動(中央区立 明石小学校)

小学校へのアウトリーチ活動(中央区立 明石小学校)

小学校へのアウトリーチ活動

日時
2008年7月4日(金)
場所
東京都 中央区立 明石小学校

中央区立明石小学校へのアウトリーチプログラム「音のおべんとう箱」

2008年度前期のプロジェクトの授業は、プロジェクト全体で小学校へのアウトリーチを実施した。

院生たちが中心となって、上野の器楽科の松原勝也先生とその学生たちと共同でプログラムを考案した。

クラシック音楽のアウトリーチとは

ホールへ気軽に足を運べない人の所(学校・病院・老人ホームなど)へ演奏家が赴き、自分の音楽を届けていく活動を指す。コーディネーターや演奏家によってその内容はさまざまであり、演奏家にとっては観客との直接的なやり取りや、場に合わせたアレンジが必要とされることも多い。

クラシック音楽の普及を目的の一つとしてミニコンサートやワークショップが行われているが、演奏家が一方的に音楽を演奏するだけのプログラムや、反対に、演奏家が力を発揮できないような状況下でのプログラムが多いことも事実である。その場を生かしたプログラムを考案することが重要であるにもかかわらず、音楽を提供する側の自己満足で終わる場合があることも否めない。

現在では、演奏家の意識改革も含めたさまざまな試みが行われており、演奏家と受け手のあいだに相互作用があるようなプログラムを考案することが、クラシック音楽のアウトリーチ活動において重要になっている。

今回のアウトリーチの特徴

プログラム企画について

中央区の第一生命ホールの主催団体として、ホールでの公演企画とコミュニティ活動を中心に活動しているNPOトリトン・アーツ・ネットワーク(TAN)のコミュニティプログラムに参加。TANのアドバイスとサポートを受け、器楽科の学生と共同で小学校への出前プログラムを企画、実践した。

演奏家の卵である器楽科の学生にとっても、企画者の卵であるプロ2の学生にとっても、アウトリーチを企画することは初めての経験である。また、TANのコミュニティプログラムの特徴として、今回の司会進行は演奏家が務めた。

演奏者について

  • 松原 勝也先生:東京芸術大学音楽学部器楽科 准教授(ヴァイオリン)
  • 竹内 弦:東京芸術大学大学院音楽研究科器楽専攻 修士課程3年(ヴァイオリン)
  • 麻柄 明日香:東京芸術大学音楽学部器楽科弦楽器専攻 4年(ヴィオラ)

さまざまな場でアウトリーチ活動をされている松原先生に、選曲、プログラム構成、当日の進行などについてアドバイスを頂きながら、竹内さん・麻柄さんと一緒に内容を考えていった。

子どもたちに何を伝えたいのか、なぜそれを伝えたいのか、どうしたらより伝わるのか、などということを何時間も学生同士で話し合ってきたことも、今回のアウトリーチの特徴である。

受け入れ先について

中央区の小学校。聞き手である3年生はクラシック音楽自体に初めて出会う子が多く、4年生は楽器を習っている子は数人いるが、コンサートに行ったことがある子は少ない。どちらの学年も、「クラシック音楽とは〜のようなものである」という先入観はまだないと言える。

プログラム考案にむけて

『アウトリーチ』に対するイメージ

アウトリーチを初めて行う竹内さん、麻柄さんとのミーティングは、まず「アウトリーチ」に対するイメージの共有を行うところから始めていった。どのような演奏を届けたいと思っているかということから、その演奏によって何を伝えたいのかを話し合った。

プロ2側では、単なるコンサートで終わらないために、そしてどうしたら記憶に残るような経験の場をつくることができるか、4月末から何度もミーティングを重ねて話し合った。

ねらいと選曲のポイント

プログラミングの核となる曲選びの段階では、誤解や対立も繰り返しながらのミーティングが続いた。今回の編成である「テルツェット(ヴァイオリン2、ヴィオラ1)」は、「カルテット(ヴァイオリン2、ヴィオラ1、チェロ1)」に比べると曲数が少なく、候補曲は数曲に絞られていた。

「聞きやすい」ドヴォルザークのセレナーデか、「新鮮な響きがする」コダーイのセレナーデか、メインの曲選びに迷いが生じた。「分かりやすい曲のほうがきちんと聞いてもらえるだろう」とするドヴォルザーク賛成派に対し、「分かりやすいとは何か?」「知っている曲を聞かされても、それが音楽の理解にはつながらない」とする反対派の意見があり、最終的に「演奏者の力が最大限に発揮される曲をじっくりと聞いてもらうことで、生演奏の力強さや迫力、演奏者の情熱を感じてもらいたい」という考えに到達した。
そこで、

  • ・音楽に対して先入観のない子どもたちには「聴きやすい」も「新鮮な響き」もなく、どれもが「目の前で初めて出会う」音楽である
  • ・演奏家である学生が、彼ららしさを出せる曲を選びたい

という二点から、現代音楽を弾きこなす演奏者の力を十分に体感してもらえる曲であり、響きの点でも子どもを惹きつける要素の多いコダーイのセレナーデを選曲。中でも多様な奏法が登場する3楽章をピックアップした。

プログラム構成

「コダーイのセレナーデ第3楽章を聴いてもらう」ことを最終目的に、プログラム構成を考えた。音楽の楽しみ方の一つとして音楽の構造を「リテラシー」という方法を取り、音楽の仕組みの面白さを体感してもらう内容にした。

まず「アンサンブル」「演奏法」「音楽の構造」の3点を「3楽章を聴くためのポイント」として選出。着眼点を変えながら同じ曲を何度か聞くことが、曲に親しみを感じることにつながると考え、実際に3楽章で使われている部分を使用するプログラムにした。ただし、演奏法で取り上げるピッチカートに関しては、バルトーク作曲「44のヴァイオリン二重奏曲」から「ピッチカート」を紹介することで、特殊奏法のピッチカートのみで演奏される曲もある、ということも知ってもらおうと考えた。

また、ただ聴かせるのではなく、演奏がどう聞こえ、どう感じたかをその場で言ってもらったり、シンコペーション特有のリズムのずれを体感してもらうために手拍子してもらうなど、子どもたちが参加できるよう工夫した。

本番前の出会い

ねらいと選曲のポイント

本番の10日前に、竹内さん・麻柄さんと一緒に小学校を訪問した。

音楽の先生と話をし、学校側がアウトリーチに望むことや、子どもたちの性格、クラスの特徴などを聞くことができた。子どもたちに当日のことを知らせにいくのではなく、一緒に給食を食べ、休み時間を過ごし、直接話をすることで演奏家には進行方法や話し方のヒントを得るきっかけに、子どもたちには演奏者の顔を覚えてもらうきっかけになった。

この日の出会いをアウトリーチ当日に繋げる方法として「カウントダウンカレンダー」をつくって子どもたちに渡し、毎日めくってもらうようお願いした。

カウントダウン・カレンダーとは、演奏者のプロフィールや、楽器の名称、特徴を、アウトリーチ開催日までカウントダウンしていくカレンダーで表したもの。イラストや実物(弦)、演奏者からのメッセージを使うなど工夫した。

本番前のリハーサル

7月1日(火)北千住キャンパス 大会議室にて

参加者:演奏家、プロ2メンバー、TANプロデューサー、TANコーディネーター

プログラム全体の流れを確認し、松原先生やTANの方々からのアドバイスをいただきながら進行方法も含めて全員で内容を詰めていった。

子どもたちへの接し方や話の内容、演奏を聴くにはどのような配置が適切かなど、当日の教室の状況を想定したリハーサルを行った。

アウトリーチ『音のおべんとう箱』当日

7月4日(金)4校時:3年生(29名)、5校時:4年生(34名) 音楽室にて

プロ2スタッフは半分に分かれ、進行アシスタントと記録(ビデオ、写真)を各時間で担当。

『音のおべんとう箱』プログラム

タイトル『音のおべんとう箱』について

「あなたの好きなお弁当のメニューは何?」

このタイトルは、コダーイのセレナーデ3楽章というお弁当箱の中に詰められている、さまざまな音や特徴を知ってもらいたいという願いからつけられた。また、音楽に関する好き嫌いを、お弁当のおかずのように自由に発見してもらいたいという意図も含んでいる。

『音のおべんとう箱』プログラム

♪=演奏

「アンサンブルって面白いね」コーナー

1.コダーイ セレナーデ3楽章
あえて演奏者の紹介などをせず、子どもたちが着席した時点で演奏を始める。3楽章の冒頭部分を、セカンドヴァイオリン→ヴィオラ→ファーストヴァイオリンと徐々に演奏家が増えていくかたちで演奏する。

【ねらい】
一人で弾く音(=寂しい感じ)から、二人で弾く音(=面白い)、そして三人で弾く音(=もっと面白い)へと音が重なっていくアンサンブルの面白さを知ってもらう。

2.自己紹介と感想
自己紹介の後、「セカンドヴァイオリンが一人で伴奏部分を弾いていたときはどんなかんじがした?」など、演奏する様子や音から受けた印象を聞く。

「カウントダウン・カレンダー復習」コーナー

前の教室訪問で渡しておいたカウントダウン・カレンダーの内容を復習する。「弓」を示し、名称を尋ねる。先ほどの演奏は「弓」で「弦」をこすっていたと紹介する。

【ねらい】
まずは弓に注意を向けることで奏法に興味を持ってもらい、弓で弦をこすって音を出すことがクラシック音楽での弦楽器の演奏方法の基本であることを紹介する。

「ピッチカート」コーナー

1.特殊奏法であるピッチカート奏法の紹介。
♪セレナーデ3楽章よりピッチカート部分の抜粋

【ねらい】
弓を使わない奏法としてピッチカート奏法を紹介する。また、はじめにセカンドヴァイオリンとヴィオラのみで演奏することで、そのピッチカート部分がこの曲においては伴奏の役割を果たしていることも示す。

2.バルトーク 44のヴァイオリン より 『ピッチカート』

【ねらい】
ピッチカート奏法のみで演奏する曲もあるということを紹介する。

「メロディの受けわたし」コーナー

1.このコーナーで演奏したピッチカートによる伴奏部分に、ファーストヴァイオリンによるメロディを加えて演奏する。
♪コダーイ セレナーデ3楽章より一部抜粋

【ねらい】
メロディが加わることで、「伴奏」とはメロディを下から支える役割を果たしていることを体験してもらう。

2.先に演奏した部分で、メロディが別の楽器に受けわたされていたことを紹介。まずは、メロディのみの演奏から。
♪コダーイ セレナーデ3楽章より一部抜粋

3.この順番でメロディを演奏していたか確認したら、譜面どおりに演奏する。
♪コダーイ セレナーデ3楽章より一部抜粋

「シンコペーション」コーナー

1.ヴィオラの音に合わせて手拍子を行い、ヴァイオリンでさまざまなリズムを刻む。

【ねらい】
子どもたちのたたく手拍子に対して、ヴァイオリンがずれたリズムを刻む。このずれたリズムのことを「シンコペーション」と呼ぶことを紹介する。

2.子どもたちに手拍子をしてもらい、コダーイのセレナーデ3楽章の冒頭部分を演奏。
♪コダーイ セレナーデ3楽章より冒頭部分の抜粋

【ねらい】
シンコペーションが曲の中に取り入れられていることを体験してもらう。

「コダーイ セレナーデ3楽章を全部聞いてみよう」コーナー

これまでに紹介した「ピッチカート奏法」「メロディの受けわたし」「シンコペーション」が曲の随所に登場することを紹介。演奏前に、演奏者が曲の中で好きなところ、聞いてもらいところを話す。
♪コダーイ セレナーデ3楽章

演奏終了、質問コーナー

子どもたちに、演奏者に対して気になったことなどを質問してもらう

演奏後のQ&A

演奏終了後に、演奏者へ自由に質問してもらうコーナーを設けた。

長い曲を聴き終わった後に「何でも質問してください。」と言われ、はじめは戸惑っていた子どもたちだったが、先生に促されて徐々に質問をするようになった。

どちらの学年も演奏者のプロフィールに関する質問からはじまり、質問が増えていくにつれて学年ごとに特徴が表れた。

3年生

演奏者の演奏する姿が印象的だったのか、
「ピッチカートをして指を骨折したりしないんですか?」
「肩は痛くなったりしませんか?」など、“演奏する演奏者の体”に関する質問が多くあった。

後半は“楽器そのもの”に視点が移り、
「弦を変えたことはありますか?」
「弓の馬の毛は変えるんですか?」
「楽器はいつ壊れますか?」
「楽器は重くないんですか?」
という質問が次々と挙がっていった。

4年生

3年生と同様に、一人が口火を切ると次々と質問が挙がった。始めは“楽器そのもの”に注目した質問、
「ヴァイオリンが初めてつくられたところはどこですか?」
「ヴィオラとヴァイオリンはどう違うんですか?」
「弦を変えるとどうなるんですか?」
というものが多く、次第に、
「高い音や低い音はどうやって出すんですか?」
「弾くときに手を揺らすのはなぜですか?」(ビブラート)
「楽器を弾くときに体を揺らすのはなぜですか」
と、楽器の弾き方や表現方法などの“弾くときの様子”に関する質問へと移っていった。

アウトリーチを終えて

子どもたちの感想から

構造の理解については3年生と4年生に差があったようだったが、目の前での音楽に驚き、心奪われた顔をしている子が両学年に何人か見られた。

音楽が子どもたちにどのような変化をもたらしたのかを知るため、感想シートを配布して後日回収した。

今後の課題

音楽用語の説明などで使った言葉自体が、理解のさまたげになってしまったことが時折見られた。選曲や内容に関しては3年生と4年生の差を設けるべきではないという思いはあったが、言い回しなどはより対象に合わせるべきだったという反省点がある。

また、「先入観を持たない子どもたちだからこそ『分かりやすい音楽』という意識にとらわれずに構成する」という意図は、打ち合わせを通して理解していただいたものの、アウトリーチ後に学校側から「子どもたち全員が楽しめるような音楽も、聴かせてもらいたかった」という感想をいただいた。

学校側の要望と演奏者の要望をミックスさせ、両者が納得のいくプログラムを考えること、さらに、ただ音楽を聴かせるだけではなく、音楽を聴くことで起こる気持ちの変化などを、子どもたちが自分から表すことができるようなプログラムを企画することが、今後の課題である。

(松木まどか・松谷はるな)

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